紅茶片手に読書している。そして音楽を聴きながら

本の感想、コンサート記録など書いています。

ありがとう 金魚

今日、金魚が天国に行きました。
十年以上一緒に暮らした、大切な家族。
3月11日の雪の日に倒れてから、今日まで、
ずっと横倒しになってしまったままでした。

金魚が倒れたすぐ後に、母が倒れ
母が先に、静かに眠りについてしまいました。

「お願い。ぎんちゃん。まだいかないで。今だけはお願い」

治療用バケツにいる金魚にむかって、
母の病院から帰るたびに、
家から出かけるたびに、頼みました。
お願い。今は駄目。今はいかないで。

バケツにぷっかりと横倒しで浮かびながらも
ぎんちゃんは、名前を呼ばれると、動かすことのできる前ひれを
ぱたぱた、とさせてくれました。
「大丈夫?パタパタできる?」と聞くと
ぱたぱた、とひれを動かしてくれました。
もう前に進むこともできず、後ろへ後ろへと進むばかりだったけれど。
ぎんちゃんに、たくさん話を聞いてもらいました。
家族に話せないような気持ちも、
だれもいない時間に、ぎんちゃん相手に喋っていました。
ぎんちゃんは、横倒しになったまま
いつもひれを、ぱたぱた、とさせてくれました。

母の葬儀で、どうしても家にいられず、数日家をあけて
帰ってきたら
ぎんちゃんの身体が、黒くなっていました。
病気で、背ひれも溶けてしまっていました。
えら呼吸も苦しそうで
ときどき、身体をびくっとさせていました。
数日、日光浴も、水替えもできなかったせいなのか…。
ずっと一人ぼっちでほっておいてしまったせいなのか…。

苦しいんだね…。ごめんね。
頑張っているんだね。

病気で黒くなってしまっていても、
「ただいま。ぎんちゃん。帰ってきたよ。大丈夫?」
と聞くと、ひれを、ぱたぱたさせてくれました。

そのまま、しばらく、生きてくれました。
まるで、私の哀しみに寄り添ってくれるみたいに。

今日から、私も仕事を始めました。
ぎんちゃん、とても苦しそうで。
「ねえ、ぎんちゃん。ごめんね。ありがとうね。
苦しいよね。頑張ってくれて、ありがとうね。
あんまり引き止めたら、ぎんちゃん苦しいばっかりなのかな。
ごめんね」
そう言って、仕事に行きました。お昼に帰ってきたとき、バケツの中のぎんちゃんを見ると、
とっても苦しそうにしていました。
そして、お昼休みが終わる少し前に
ぎんちゃんも、息をひきとりました。

ありがとう。

庭の歴代金魚ちゃんたちのお墓のあるところに
ぎんちゃんを埋葬しました。
たくさんお花のある季節だから
たくさんのお花を飾りました。

赤くてきれいな金魚だったけれど
病気で、黒くなってしまって
ひれも、溶けてしまいました。

でも、とっても、きれいな金魚でした。
一番、懐いてくれた金魚でした。
いつも、話を聞いてくれた金魚でした。
ありがとう。
おうちに来てくれて、ありがとう。
一緒にずっと暮らしてくれてありがとう。

天国で、お母さんによろしくね。
今度は、お母さんの話を聞いてあげてね。