紅茶片手に読書している。そして音楽を聴きながら

本の感想、コンサート記録など書いています。

歌舞伎「棒しばり」

先日、東京に行くことがあり、時間が空いたので
ちょっと歌舞伎座に行ってきました。
新しくなった歌舞伎座は初めてなので、とてもわくわくしました。

東銀座から直結で、改札を抜けるとすぐに夢空間

この空間の演出に、「今自分は歌舞伎座にいるんだ!!」との
わくわく感がつのりました。
(こういうのって、すごく大切だと思います!!)

今回は、突然思い立っての行動だったため、
幕見を利用して、「棒しばり」を観ることにしました。

幕見。このシステム、私大好きなんです。

歌舞伎の公演って、二つから三つの演目が一セットとなって、
一日に二公演から三公演が行われます。
チケットを購入する時は、この公演単位での発売となります。
チケットは、今回の公演なら一等だと15000円。でも、3階B席なら、
3000円でした。
私、この料金の巾があるのも、歌舞伎座の大きな魅力だと
思っています!!

そして、幕見というのは
ひとつの演目のみを観るシステムです。

今回、一日三部制でした。
第一部は、おちくぼ物語と、棒しばり。
この「棒しばり」のみの観劇ができるのが「幕見」です。
ちなみに、今回「棒しばり」の幕見のお値段は1000円。
たいへんお手頃価格です(*^_^*)

昔、仕事で東京出張などありますと
日中にふいに時間があいた時、
夕方からぽん、と時間があいた時には
歌舞伎座によって、タイミングがあえば「幕見」をしていました。

そんなふうに、けっこう手軽に「歌舞伎」に触れられるのが
この「幕見」のシステムなのです。

ちなみに
この「幕見」のために、歌舞伎座は一般のお客様とは別ルートを
準備してあるのです。「幕見」の客は、はじめから最後まで
一般のお客様のいる場所には、入ることができません。

「幕見」の客は、まず、チケット購入場所が違います。
「幕見」チケット売り場で、「幕見」チケットを購入。
そして、一般のお客様とは違う、「幕見」用の入口から入場です。
古い歌舞伎座ですと、この後、急で狭い階段を、カタカタと上まで登りました。それがなんだか「裏ルート攻略」みたいでとても楽しかったのですが。
新しい歌舞伎座では、なんと!エレベーターが設置されておりました!!
びっくり。でもこれ、お年を召された方などには、とっても嬉しいサービスだと思います!!
そしてエレベーターで4階まで、するする〜と登ります。
そこには、幕見客用の、仕切られた「待合場所」があります。
幕見客はそこで、前の幕が終わるのを、じっと待ちます。

今回驚いたことが、まだあります。
私が20年ほど前に、歌舞伎座に通っていたころ
歌舞伎の幕見といったら、「歌舞伎が好きすぎて、
一か月に何度も歌舞伎座に通ってしまう」とか
「この幕を勉強するために、何度も来ています」とか
「この役者さんが好きすぎて、今月もう5回目なんです」とか
「暇ができれば、この幕見に来てしまうのです」とか
通い慣れている人が多い!というイメージがありました。
ところが今回、ひさ〜し振りに幕見席に足を運んでみたら。
外国人観光客の方と思われるかたが、とてもたくさん
いらっしゃいました!!
そして、案内の方が、英語で案内をされていらっしゃいました。

20年で、時代は変わっていたのですね。
歌舞伎は、海外の方に、魅力を発信し続けていました。
海外公演なども、何度も行っていました。
その結果なのでしょうか。
それとも、幕見のことが、多くの皆さんに知られるように
なっているからなのでしょうか?

どちらにしても、とても喜ばしいことだと思いました。

さて、前置きが長くなりすぎました。
今回の「棒しばり」
次郎冠者が勘九郎さん
太郎冠者が巳之助くん
曽根松兵衛が弥十郎さんでした。

幕が上がる前、きのねが聴こえてきます。
「ああ。久しぶりに、自分はこの空間に来ることができたのだ!」と
それだけで、胸がいっぱいになります。
そして、幕が上がります。

巳之助くん、ほんとうに小さな頃のイメージが強かったのですが
もうすっかり青年になっています!!(当たり前ですね)
勘九郎さんも、ずいぶん風格が出ています。
(彼も、小学生の頃から見ているのでついつい(^_^;))

すっかり大人になって!!とそれだけで、うるうるきてしまう
おばさんがここに(笑)

「棒しばり」の演目は、とても楽しいコメディです。
主人が出かける時、家に残してゆく太郎冠者と次郎冠者が
またお酒を飲んでしまってはいけないと思い
二人をたばかって、太郎冠者の手を後ろに縛り
次郎冠者は棒に手を縛ってしまいます。
主人がいなくなると、二人は協力して工夫をして
酒蔵に入り、まんまとお酒を飲みかわし、酔っ払い、
手は縛られたまま、踊りはじめます。
そこに主人が帰ってきて!!
という話がコミカルに、楽しく
しかし、舞踊は格調高く演じられます。

今回も、皆さんとても楽しげに
そして舞踊は美しく
間もおもしろおかしく
とっても笑わせていただいたのですが…。

巳之助さんの仕草のひとつひとつが
ときどきふと、お父様の三津五郎さんを思い起こさせる瞬間が
ありました。
勘九郎さんの舞踊のあしさばき、間のとりかた
せりふのはしばしに
お父様の勘三郎さんの面影が見える瞬間がありました。
あのお二人のお子様が
今こうして立派な青年になって、ともに舞台を務めていらっしゃる。

とっても、楽しいのに
いろいろな光景が
三津五郎さんの舞踊や、勘三郎さんの舞台の数々が
まぶたに蘇ってきてしまって。

くすくすと笑っているのに、
急に、涙がぽろりと落ちてしまいました。

そうか。
年を取るって、こういうことなのかもしれません。
ひとつの風景の裏側に
今までの風景が重なってしまう。
ちいさな仕草のひとつひとつから
想い出の扉が開いてしまう。

ものごとが、ただ今ここにあるものだけでなく
自分が生きて、見てきたすべてのことに重なって
失ったもの、すぎていた時とともに
多くの感情が浮かび上がってくる。

胸にさまざまな想いを抱きながら
それでも、やっぱり、楽しく笑って
舞台を、夢中になって見ていました。

やっぱり、今のこの舞台は、今演じている役者さんのもの。
それはとても大切で、すばらしい空間でした。

久しぶりの歌舞伎鑑賞。とても楽しませていただきました。
また、いろいろ舞台も見たくなってしまいました(^_^;)
と道楽の虫がうずうずしておりますが。
自重自重。

でも、10月公演の、
玉三郎さんの阿古屋に松禄さんの髪結新三は見たいなあ……。

(だめだめ。自重自重)