紅茶片手に読書している。そして音楽を聴きながら

本の感想、コンサート記録など書いています。

金魚のこと

我が家に、金魚が来たのは、娘がまだ歩きはじめる少し前のことでした。
1歳のお誕生日の少し前。今からもう12年ほど前になります。

小さな、もみじみたいな手をした、赤ん坊の頃の娘はとても喜んで
3匹の金魚たちを眺めていました。

とても元気な金魚たちで、仲良しで
いつも、追いかけっこをして遊んでいました。

少し大きくなった娘は、金魚に名前をつけました。
食いしん坊で一番大きな金魚が「きんちゃん」
控えめで、おっとりした金魚が「ぎんちゃん」
よく飛び跳ねて、「ぽちゃん」と水音を立てるのが大好きな「きらちゃん」

娘がピアノを習い始めてからは、金魚たちは、不思議とピアノの音が聴こえると、水をぽちゃん、ぽちゃんとさせて、飛び跳ねるようになりました。
「金魚ちゃん、ピアノが好きよ」
まだまだ、小さな娘は、そう言ってはピアノを弾いて、笑いました。

金魚たちは、夏になると、とっても元気になって
御飯がもらえるのが嬉しくて仕方なくて
私の足音がするだけで、水をぽちゃんぽちゃんとさせて
跳ね返って、喜びました。

娘の友達も遊びにくると、
「大きな魚がいる」と、金魚に御飯をあげるのを喜んでくれました。

庭に住んでいる金魚たち。
金魚鉢のお水を、野良猫たちがよく飲みにやってきました。
網がはってあるから大丈夫なのですが
それでも、野良猫たちが金魚鉢に手をかけると
金魚たちは、大騒ぎで、逃げ回るのです。

たくさんの年月が経ち、
娘はいつしか、私よりも背が高くなりました。

金魚たちも、食いしん坊の「きんちゃん」そして、はねっかえりの「きらちゃん」が相次いでこの世を去りました。

一匹になってしまった「ぎんちゃん」
おとなしいこの子は、仲間がいなくなっても
じっと、生きてきてくれました。
一匹になってしまってからは、日中、不思議と、水面ちかくでぼんやりと、空を見ていることが増えました。

「きっと、きんちゃんと、きらちゃんが遊びにきているんだよ」
「ぎんちゃんには、それが見えているんじゃないかな」
まだ小学生の娘は、そんなことを言っていました。

いつしか、金魚が家に来てからもう12年の月日が経ってしまいました。
気付けば、ぎんちゃんは、すっかり病気がちになり
御飯をあげても、よく見えていないのか、うまく食べられないようにも見えました。

この冬は、ついに身体が曲がってしまい、病気がどんどんと重くなってるのがわかりました。
それでも、「ごはんだよ」と呼べば、ゆらゆらと、水面まで上がってきてくれていました。

3月だというのに、雪の降った日のことでした。
いつものように、御飯をあげようと、金魚鉢をのぞくと
ぎんちゃんが、ぷかりと横になっていました。

びっくりしてすくいあげようとすると
まだ、エラが動いています。

寒かったんだ。ごめんねと、金魚をバケツに入れて、
暖かい家の中に移動させました。
すると、少し元気になって、泳ぎ始めたので、ほっとしたのです。

でも、夜になると、また、バケツの底で、横になってしまいました。
「ぎんちゃん」と声をかければ、頑張って身体を起こして、こちらに泳いできてくれます。でも、それも、とても大変そうで…。

今朝、少し泳いでいました。ちょっとは良くなってきたのかな、と思って、ごはんをあげました。
昨日はたべられなかった 御飯を、今日は食べることができました。

よかった、と少し安心していたのに。

夜になったら、バケツの底で横になったまま、エラを少し動かすことしか
できなくなってしまいました。
「ぎんちゃん」と声をかけても、苦しそうに、ぱたぱたと、ひれを動かしているだけです。もう、泳ぐことができなくなってしまいました。

この子の、正面から見る顔が、大好きなんです。
でも、もう、その顔を見せてくれることができないんです。
バケツの底で横になったまま、苦しそうに、ばたばた、ばたばた、と時々
もがくように、しています。

今、もう、何一つ、してあげることがないのです。
苦しいからって、さすることも
なでることも、
何もできない。

病気がちな子で、何度も何度も病気をしました。
その度に、塩水浴をしたり、日光浴をしたり、しました。
この夏には、熱中症になってしまいました。
それでも、最後は元気になってくれたのに。
控えめだけど、とっても強い金魚だったのに。

12年も、ずっと一緒にいた家族です。
あんなに小さかった娘が、立派な中学生になるまで
毎日ずっと一緒にいた家族の一員です。

金魚一匹に、おかしいのかもしれないけれど。

今眠って、明日の朝、どうなるのかと思うと
怖くて眠れません。
でも、眠らなくては。

また、朝がきたら、父や母の看病もあるし、家族の御飯を作って、
自営の仕事もある。
何を願い、何を祈ればいいのか、今はわかりません。

金魚の寿命がどれくらいか知らないけれど

こんなに長い間、ありがとう。でも、もっともっと一緒にいたいんだよ。