紅茶片手に読書している。そして音楽を聴きながら

本の感想、コンサート記録など書いています。

「わたしを離さないで」

カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を読んだ。
もう途中から、胸が痛くて痛くて。

こんな小説があるのか。こんな書き方があるのか。
そして、なんという深さなのか。

多くの衝撃が、読み終わった今でも、私の胸を叩き続けている。

個人的なことから、社会のことまで、
多くの胸の内にしまって隠しておいたことを
思い出すだけで、せつなくなる想い出を
愛しい気持ちを
やましい気持ちを

多くの感情を呼び起こし、考えずにはいられない。

人のエゴを、人のやさしさを

思い出すことを封印していた気持ちも。

具体的に話そうと思えば
この本を片手に、どれだけでも語れる。

そう思わされる本に出合えることは
多くの本を読んでいても、めったにないことを
知っている。



具体的な話は今はしないでおく。



人は、どうしたって、心の内に
浅く、そして深く、
大切な小箱を持っているのだと思う。

いくつもの記憶の小箱が
いくつもの想いの小箱が
あるのだと思う。

胸の奥に深く沈めた記憶の小箱もあるだろう。
ふたが開いてしまうだけで、胸が締め付けられる後悔に
さいなまれる小箱もあるだろう。
せつなくも、愛しく、大切に大切に
時に取り出して眺める小箱もあるだろう。

生きてきた自分の中に
自分の歴史として持っている小箱。

或る意味、自分が自分であることを証明するためのもので
あるかのような小箱。


その小箱に優しく触れ
その小箱があることを、そうだねと、認めてくれ

自分の中に、思いもよらない小箱があったことも思い出させてくれる。

そんな本です。

「わたしを離さないで」


今、すごく売れているみたいで
きっと読んでいる方も多いと思います。

途中で挫折しないで
はじめのところで「なんだ」なんて思わずに。

読んでほしい本です。