紅茶片手に読書している。そして音楽を聴きながら

本の感想、コンサート記録など書いています。

ピアノの調べが聴こえる。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

村上作品を読むのは久しぶりです。これは、もっと早く読めばよかった。
今まで読んだ村上作品の中では一番好きかも。

読書メーターでは、ネタばれになるので、記述せず、こちらに。

初期の村上春樹の作品は、どこかジャズのリズムがあるような文章だと思っていたけれど、
これは、上質なクラシックの響きが感じられる文章。
リストの「巡礼の年」第一年スイス『ル・マル・デゥ・ベイ』が全編を彩る。
格調高く繊細で、どこか哀しくそして優しい。

フィンランドシベリウスの生まれ故郷にある湖畔のサマーハウスで語り合うシーンがとても好きだ。
「人の心と心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ。悲痛な叫びを含まない静けさはなく、血を地面に流さない赦しはなく、痛切な喪失を通り抜けない受容はない。それが真の調和の根底にあるものなのだ」

色彩を持たない人などいない。
村上作品を読んで、泣くとは思わなかった。