紅茶片手に読書している。そして音楽を聴きながら

本の感想、コンサート記録など書いています。

牛田智大さん、京都コンサートホール リサイタル

牛田智大さんのピアノリサイタルで
今度は京都まで行ってきました。

今年はまだ二か月しかたっていないのに
一月の横浜のモーツアルトのコンチェルト、愛知、
二月の浜松、東京、そして京都と
牛田さんの舞台を拝見することができました。

いつもこんなペースで行っているのではないのです。
本当に、偶然たまたま。
会場が比較的近かったことと、どうしても見たい舞台だったことと
家の都合その他いろいろなことが重なったからなのです。

でも、この偶然のおかげで
牛田さんが大きく飛躍する姿を見つめ続けることができたことに
深く深く感謝しています。

ピアニスト牛田智大さんのピアノを
初めて聴かせていただいたのは
東京でのデビューリサイタルの少し前の
名古屋しらかわホールでした。

まだあどけない、12歳の少年が
緊張のあまり震えているようで
客席から見ていてもドキドキ、ドキドキしながら聴きました。

それでも、曲を弾き始めてから
どんどんと曲を弾くことにのめり込んでゆく姿に
心惹かれました。

リトルピアニスト牛田智大さんの、誕生でした。


いくつかの舞台を経て
2014年の愛知のリサイタルが衝撃でした。

甘いショパンやリストの小曲を弾かれている
まだ小さなあどけない印象の残る牛田さんが
ラフマニノフなどの大曲ソナタをひっさげて向かった
リサイタルの初披露。

今までの天使のイメージを覆す彼のピアノの激しさに
人の世の喜びと苦しみを
愛と死を描きだそうとするかのようなピアノに
牛田さんの大きな成長を見たようで
いや、もしかすると、牛田さん自身の別の大きな一面を見たようで
(前年の愛知のリサイタルで聴いた
 リストの「ダンテを読んで」は、その片鱗を見せていたように
 思うのです)
「この人は、世界のピアニストになるのではないか」と
思ったのです。
舞台に行き、感動し、満足するだけではない
いつまでも聴く人の胸に残り
何度でも聴きに行きたいと思わせる魅力を感じました。

この頃から、牛田君と呼ぶのをやめ、
一人のピアニストとしての尊敬をこめて
牛田さんと呼ぶようになりました。

そして、今、2016年。
牛田さんはまた大きく変化しているように思うのです。

今回のプログラムに入っている
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」の編曲版。
そして、「展覧会の絵ホロヴィッツ編曲版。

この二つの大きな編曲版は
ピアノでオーケストラを表そうとでもするかのような意欲的な
プログラムだと思いました。
さらに前者は明るく舞踊的要素を持ち、まるで「愛」を示すかのよう
後者は暗く絵画的要素を持ち、まるで「死」を示すかのよう。

牛田さんのピアノは
実際に、とてもひとつのピアノから生まれるとは思えないほど
多彩な音色を持っていました。
チェレスタのような響き、弦楽器の響き、金管楽器の響き
木管楽器のような響き、そしてハープの音色。
それぞれをピアノ一台で同時に複雑な音色で描き出す。

それだけでも、素晴らしいと思うのですが
彼は東京と京都で、同じ曲でありながら、何か
違う曲を弾いていたのです。
ため、が違うとか、出す旋律が違うとか
それだけではない。
編曲が違うのではないか?と思います。

この二つの大曲の中で、
そして、この他に弾かれた曲たちの中で
牛田さんは、とても強く「牛田智大」の音楽を主張していると思いました。

今、自分は、強烈な個性を持つピアニスト、牛田智大
その個性を明らかに示し始めた舞台を見ているのではないか。

京都で、そう思いました。

ええと。
どうしたら、うまく伝わるでしょうか?

有名な観光地の写真を見て、観光用のはがきを見て
その風景に憧れることがあります。
そして、その地を訪れることがあります。
その時に、「え〜見ていた写真と違う」と
思うことはありませんか?

がっかりすることも、あるかもしれません。
でも、そこにある風景は、写真だけでは伝わらない
確かな個性を持っており
そして、
四季折々に変化する姿を見せ
写真に納まりきることのない
空気と風と色を持っています。
そこには、写真だけでは伝わらない
今そこにいることによって生まれる心の動きがあります。

牛田さんの舞台は、
どこかそれに似ています。

CDを聴き
その曲に憧れて、それと同じ曲を聴けると思い舞台に行くと
「あれ?聴いていた音楽と何かが違う」と思ったりもします。

でも、そこには、CDだけでは伝わらない
確かな個性を持ち
時によりさまざまに変化する音を持ち
CDに納まりきることのない
空気と風と色を持ち
何よりも、そのものの持つ魂のこもった音を持つ
感動の生まれる舞台があると思うのです。

音楽の専門家でもない自分が
ずいぶん勝手なことを書きました。

長く書いてしまいました。
お付き合いいただいた方
もしいらっしゃいましたら

よかったら、ピアニスト牛田智大の舞台を聴いてみませんか?